「M&A仲介会社はたくさんあるが、どこが信頼できるのかわからない」
そう感じるのは自然なことです。M&A仲介業は、現在のところ誰でも参入できる業種です。弁護士や税理士のような国家資格はなく、看板を掲げれば翌日から営業を始めることができます。
こうした状況に対して、経済産業省(中小企業庁)は2021年に「M&A支援機関登録制度」を創設しました。この制度を正しく理解することが、信頼できる仲介会社・FAを選ぶ第一歩になります。
この記事では、登録制度の仕組みと意義、そして「登録されている=安心」とは言い切れない理由まで、実務経験者の視点でお伝えします。
M&A支援機関登録制度とは何か
制度が生まれた背景
M&A支援機関登録制度は、2021年8月に中小企業庁が創設した制度です。
創設の背景には、中小企業のM&A市場が急速に拡大する中で、一部の業者によるトラブルが増えていたという事実があります。具体的には、高額な手数料を請求されたケース、手数料の内訳について十分な説明がなかったケース、強引な契約勧誘を受けたケースなどが報告されていました。
また、仲介会社が売り手・買い手の両方から手数料を取る「両手取引」の問題や、不適切な買い手(反社会的勢力や資金力に問題のある先)を相手方として紹介されるリスクも、業界全体の課題として指摘されていました。
政府としても「このままでは中小企業の経営者がM&Aに踏み出せない」という危機感があり、最低限の規律を設ける仕組みとして、この登録制度が生まれました。
登録の条件と仕組み
登録を受けるには、主に以下の条件を満たす必要があります。
- 中小M&Aガイドラインの遵守を宣言すること 経済産業省が策定した「中小M&Aガイドライン」に従って業務を行うことを明示的に表明します。
- 手数料体系を開示すること レーマン方式の料率、最低手数料の有無、着手金の有無などを公開する義務があります。
- 欠格要件に該当しないこと 過去に重大な法令違反があった業者などは登録できません。
登録は法人だけでなく個人事業主も対象です。2026年6月時点で登録されているFA・仲介業者は3,399件(法人2,606件、個人事業主793件)に上ります。
中小M&Aガイドラインとは
中小M&Aガイドラインは、仲介会社・FAが守るべき行動指針をまとめたものです。2021年の初版から改訂が重ねられ、2024年8月に第3版が公表されました。
第3版では、以下の点が強化されました。
- 手数料の詳細と各フェーズで行う業務内容を具体的に説明する義務
- 担当者の保有資格・経験年数・成約実績の開示
- 希望しない相手への広告・営業活動の停止
- 経営者保証の取り扱いについての説明義務
つまり、登録制度とガイドラインはセットで機能しています。登録業者はガイドライン遵守を約束した事業者であり、違反した場合は登録取消の対象になります。
登録されていない業者を使うリスク
登録されていない仲介会社・FAがすべて問題のある業者というわけではありません。ただし、未登録業者を選んだ場合、以下のリスクが高まります。
手数料の不透明さ
登録業者は手数料体系の開示が義務付けられています。未登録業者にはその義務がなく、「成功報酬はご相談の上で決めます」という形で、後から高額な請求をされるケースがあります。
ガイドラインの適用外
中小M&Aガイドラインは、登録業者に対して適用されるものです。未登録業者との取引では、ガイドラインに基づく保護を受けられません。
補助金が使えない
中小企業庁が運営する「事業承継・引継ぎ補助金」の一部は、登録支援機関を経由することが要件になっています。未登録業者と契約した場合、補助金の対象外となる可能性があります。補助金の活用を検討しているなら、登録業者を選ぶことは前提条件です。
3,399件の登録機関から選ぶ意味
全国3,399件という規模感
3,399件という数字は、地方の小規模FA・士業まで含めた網羅的な数字です。内訳を見ると、法人(2,606件)に加えて個人事業主(793件)も含まれており、フリーランスFAや独立系アドバイザーも対象になっています。
これだけの数が登録されているということは、大手仲介会社に限らず、地域密着型の仲介会社・業種特化型のFA・個人アドバイザーが全国各地にいるということです。
「自分に合った支援機関」を探せる
大手の全国系仲介会社は知名度が高い反面、小規模な案件には不向きなケースがあります(詳細は別記事「小規模M&Aで失敗しないための仲介会社選び」を参照)。
一方、地域密着型の仲介会社や業種に強いFAは、登録機関の中に多数存在します。
たとえば、以下のような条件で絞り込みができます。
- 地域:都道府県・市区町村での絞り込み
- 形態:FA(売り手専属)か仲介か
- 手数料体系:最低報酬の有無・レーマン料率の確認
- 成約実績件数:実績数の多い機関を優先
3,399件をすべて自力で調べることは現実的ではありませんが、公的データを使った比較DBを活用すれば、自分の条件に合った支援機関を効率的に絞り込めます。
「登録=信頼できる」とは言い切れない理由
ここまで登録制度のメリットを説明してきましたが、正直に言うと、「登録されているから安心」という単純な話ではありません。
登録はスタートラインに過ぎない
登録の要件は「ガイドライン遵守の宣言」と「手数料の開示」が中心です。登録のハードルは決して高くなく、実績がゼロでも登録できます。
つまり、登録されていることは「最低限の規律を守ることを約束した」というスタートラインであり、「案件を適切に対応できる実力がある」という保証ではありません。
規律違反の件数も報告されている
中小企業庁は登録業者を対象とした実態調査を定期的に行っており、一部の登録業者でガイドライン違反の疑いがある行為が報告されています。登録制度は存在するものの、すべての登録業者が完全にルールを守っているわけではないのが現実です。
選ぶ側の判断が重要になる
だからこそ、手数料体系・成約実績・担当者の経験年数・得意業種といった具体的な情報を比較したうえで選ぶことが大切です。「登録されているから」という理由だけで選ぶのではなく、複数の登録機関を比較検討することを勧めます。
実務経験者の視点:「信頼できる支援機関」の見極め方
買い手・FAとして実際の案件に携わってきた立場から言うと、信頼できる支援機関にはいくつかの共通点があります。
① 最初の面談で手数料の話を曖昧にしない
「成功報酬は〇〇%です。最低手数料は〇〇円です」と最初から明示してくれる支援機関は、情報開示に慣れており、ガイドラインを実務として身につけている可能性が高いです。逆に、手数料の話を「ご相談の上で」と先延ばしにするケースは注意が必要です。
② 担当者が自分の成約実績を答えられる
「会社として何件成約したか」だけでなく、「担当者自身が何件経験してきたか」を聞いてみてください。会社の実績は多くても、担当する人が経験の浅い新人ということは珍しくありません。
③ 「今すぐ契約しましょう」と急かさない
良い支援機関は、売り手が自分で判断できる時間を尊重します。初回面談で「他社との比較はお勧めしません」「早く決めないと機会を逃します」といった言い方をする業者は、ガイドラインの精神からも外れています。
④ 買い手候補のリストについて説明できる
「この規模・業種の案件であれば、こういった買い手が検討するケースが多い」という説明ができる支援機関は、実際の買い手と接点を持っています。「一般的に需要があります」という曖昧な返答しかできない場合、買い手側のネットワークが薄い可能性があります。
まとめ
- M&A支援機関登録制度は、2021年に創設された制度で、登録業者はガイドライン遵守と手数料開示を義務付けられています。
- 未登録業者では手数料の透明性が低くなるリスクがあり、補助金も使えない場合があります。
- 3,399件の登録機関には大手だけでなく、地域密着型・業種特化型の機関も多数含まれています。
- 「登録=信頼できる」ではなく、登録はスタートライン。複数機関を比較することが重要です。
仲介会社・FAを選ぶ際は、M&Aあんしんナビで経産省登録の3,399件を比較してみてください。手数料体系・成約実績件数・FA対応の有無でフィルタリングができます。匿名のまま複数の登録機関から提案を受け取ることもできます。
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