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M&A事例紹介

設立66年の冷蔵倉庫会社が1.5億円で売れた理由:M&A事業承継の実例

2026年6月22日

「うちは製造業でも技術系でもないし、売れるのか」と思っている経営者の方は多いのではないでしょうか。

2026年6月、愛知県名古屋市港区の冷蔵倉庫会社が、東証スタンダード上場の株式会社シルバーライフ(証券コード:9262)に1億5,000万円で売却されました。会社の規模は売上約1億円、純資産は9,000万円です。

純資産を約6,000万円上回る評価(PBR約1.66倍)。この差がなぜついたのか。事例の構造を読み解くと、中小企業のM&Aを考えるうえで重要なポイントが見えてきます。


案件の概要

成田冷蔵株式会社は、1960年3月に愛知県名古屋市港区で設立された冷蔵倉庫会社です。事業内容は製氷業・冷蔵倉庫業・冷凍食品販売・一般食品販売・不動産賃貸業と幅広く、名古屋港至近という立地を活かした保税対応倉庫を保有しています。

代表取締役の成田剛氏が株式の76.7%を保有し、残る23.3%をその他個人株主3名が保有していました。取引スキームは全株式の譲渡(100%取得)で、成田社長を含む売り手全員が株式を手放す形です。

項目

内容

会社名

成田冷蔵株式会社

所在地

愛知県名古屋市港区

設立

1960年3月(設立66年)

資本金

3,600万円

主な事業

冷蔵倉庫業・製氷業・冷凍食品販売・不動産賃貸

取得価額

1億5,000万円(予定)

資金調達

買い手の自己資金

2026年6月15日に取締役会決議、同年6月23日に契約締結・株式譲渡実行の予定。譲渡後は現経営陣による半年間の引継ぎ期間を経て、シルバーライフ主導の運営体制に移行する計画です。


直近3期の財務データと、気になる減益について

決算期

売上高

営業利益

経常利益

純資産

2024年2月期

9,829万円

1,190万円

1,398万円

7,624万円

2025年2月期

9,531万円

110万円

302万円

7,903万円

2026年2月期

1億308万円

1,125万円

1,372万円

9,030万円

3期を通じて売上はほぼ横ばいの1億円前後で推移しています。気になるのは2025年2月期の営業利益が110万円と前期比約90%減になっている点です。IRでは減益理由の詳細は開示されていませんが、翌期(2026年2月期)には1,125万円に回復しており、買い手はこれを「一過性の変動」と判断したと考えられます。

買い手としてこうした案件を見てきた経験から言うと、1期の変動は精査の対象にはなるものの、前後で利益水準が回復していれば致命的な懸念にはなりにくい。ただし、減益の「理由を説明できること」は重要で、説明できない減益はデューデリジェンス(買収前の詳細調査)の場面で交渉の障害になることがあります。


なぜ純資産9,000万円の会社が1.5億円で評価されたのか

1. 「代替できない立地」という資産

成田冷蔵の最大の強みは、名古屋港至近の保税対応倉庫という立地です。

保税倉庫とは、外国貨物を輸出入の税関手続きが完了するまでの間、一時的に保管できる倉庫のことです。倉庫業登録に加えて税関から保税蔵置場の許可を取得する必要があり、設備要件・管理要件ともに厳しい基準が課されます。 名古屋税関の令和8年4月時点のデータによると、名古屋市港区内で冷凍冷蔵対応の保税蔵置場を持つ施設は10数か所あります。ただし大半はニチレイ・ロジスティクス、日本通運、三井倉庫、三菱倉庫、横浜冷凍など大手物流グループの一部門です。独立系の専業冷蔵倉庫会社として保税対応を維持している事業者は、その中でも少数派にあたります。

シルバーライフは高齢者向け冷凍弁当の製造・通信販売・OEM製造を手がけており、今後の原材料調達や輸出入を含めた供給網の安定化を課題としていました。保税対応の低温倉庫は、それを解決する機能をそのまま持っています。

FA(財務アドバイザー)として案件に関わってきた経験から言うと、代替困難な資産・立地を持つ会社は、純資産を大きく上回る評価がつきやすい。理由はシンプルで、買い手が「同じ機能を自分で作ろうとすると、いくらかかるか」を想像した瞬間に、購入価格との比較が有利になるからです。加えて、名古屋港近辺で独立系の保税冷凍冷蔵倉庫を買収できる機会自体がそもそも少ない。「今買わなければ次はいつか」という希少性が、買い手の意思決定を後押ししたと考えられます。

2. 許認可が「参入障壁」として評価される

成田冷蔵が保有するのは「倉庫業登録」と「保健所営業許可」です。このうち倉庫業登録は、国土交通大臣への登録が必要な業種であり、施設の構造・耐力基準・防火設備・管理体制など複数の要件を満たしたうえで審査を通過する必要があります。

要件を満たす施設の新設には相応の時間とコストがかかります。既存の登録済み事業者を買収する方が、多くの場合、一から参入するよりも合理的です。

こうした「許認可ビジネス」は、買い手にとって参入コストを節約できる点で評価が高くなりやすい。規模が小さくても、許認可・設備・立地がセットになっている事業は、一定の価格がつく構造があります。

3. 買い手にとっての「戦略的必要性」

シルバーライフが公表した取得理由を整理すると、成田冷蔵に求めたものは以下の4点です。

  1. 冷凍食品の保管・物流機能の強化
  2. 名古屋港至近の保税対応倉庫の活用
  3. 東海・関西方面の低温物流網の補完
  4. 原材料調達・輸出入を含む供給網の安定化

注目すべきは、シルバーライフにとってこれが初のM&A案件であることです。初めてのM&Aで1億5,000万円の決断をした背景には、「この機能をどこかで手に入れなければならない」という事業上の切実な必要性があったと読めます。

買い手が「なんとなく事業拡大したい」ではなく「この機能がないと困る」という状態にある場合、交渉における売り手の立場は強くなります。これが今回のプレミアム評価の構造的な背景です。


売り手経営者が学べること

「事業の希少性」は規模より価値がある

今回の成田冷蔵は売上約1億円という、決して大きくない会社です。しかし名古屋港至近の保税対応倉庫という代替しにくい機能を持っていた。それが純資産を大きく上回る評価につながりました。

「自社に何があるか」ではなく、「買い手にとって何が手に入りにくいか」という視点でM&Aの価値を考えると、思っていなかった評価がつくことがあります。

「戦略的買い手」を見つけることが価格を決める

同じ会社でも、誰が買うかによって評価額は変わります。一般的な不動産投資家が冷蔵倉庫を買う場合と、物流機能の補完を必要としている上場企業が買う場合では、意味が違います。後者にとっては機能を買うことであり、純資産よりも「自分で作るコスト」や「機能の緊急性」が価格の基準になります。

仲介会社・FAの役割のひとつは、こうした「戦略的買い手候補」を広くリストアップし、アプローチすることにあります。候補の数が多いほど、競争が生まれ、評価額が上がりやすくなります。

引継ぎ期間を明示することで交渉がまとまりやすくなる

今回は「半年間の引継ぎ期間」が明示されています。長年の経営で積み上げた顧客関係・取引先との信頼・現場のノウハウは、一朝一夕では移転できません。引継ぎ期間を設けることで、買い手のリスクが下がり、交渉がまとまりやすくなる側面もあります。

「売ったらすぐ終わり」ではなく、一定期間会社に関与し続けることは、売り手経営者にとっても従業員・取引先への責任を果たす形になります。


まとめ

シルバーライフによる成田冷蔵買収の事例から整理できる点は、以下の3つです。


本記事は以下の公開情報をもとに作成しています。

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