案件の概要
マルコ電機技術株式会社は、1995年設立の受変電設備工事会社です。近畿・中国エリアを中心に、30年以上にわたって事業を展開してきました。
主な事業内容は、受変電設備(工場や商業施設などに電力を安定供給するための設備)の「現地調整試験」と「改造業務」です。受変電設備が新設・更新される際の最終チェックと、既設設備の改造工事が主力業務にあたります。
2026年6月15日に株式譲渡契約が締結され、同年7月31日の譲渡実行が予定されています。取得価額は株式分だけで約5億5,370万円。ポエック社が開示した取得費用の内訳は以下の通りです。
費用項目 | 金額(概算) |
|---|---|
株式取得価額 | 約5億5,370万円 |
アドバイザリー費用等 | 約3,400万円 |
合計 | 約5億8,770万円 |
アドバイザリー費用等の約3,400万円は、株式取得価額の約6.1%にあたります。これはM&Aアドバイザーへの報酬だけでなく、法務・財務・税務のデューデリジェンス(買収監査)費用なども含んだ買い手側の総取引コストです。なお、売り手側のアドバイザリー費用は本開示には含まれておらず、別途発生しています。
なぜ7名・年商2億円の会社に5.5億円の値がついたのか
1. 受変電工事の中でも「最難関・高単価」の領域に特化していた
受変電設備工事には、作業の難易度と単価によって大きな差があります。単純な配線工事や機器の据付工事は参入しやすいぶん単価が低い。一方、設備の「調整試験」や「改造」は高度な専門技術が必要で、単価が格段に高くなります。
マルコ電機技術が手がけていたのは、この最難関領域です。ただ電気を通すだけでなく、保護リレーの整定値を正確に設定し、設備が正常に保護機能を果たすかどうかを精密に検証する仕事です。設備の安全性に直結するため、失敗が許されない。それだけ高い技術と経験が求められます。
FA(財務アドバイザー)として案件に携わった経験から言うと、「他社が入れない領域に特化している」という競合優位性は、買い手が最も重視するポイントのひとつです。競合が少なければ値引きを迫られにくく、利益率が維持できる。それが企業価値に直結します。
2. 営業利益率19%という、建設業では異例の収益性
直近3期の財務データを見ると、その収益性の高さが際立ちます。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
2023年7月期 | 約1億9,910万円 | 約2,905万円 | 14.6% |
2024年7月期 | 約2億1,128万円 | 約3,137万円 | 14.8% |
2025年7月期 | 約2億835万円 | 約4,006万円 | 19.0% |
一般的な建設・電気工事業の営業利益率は3〜8%程度です。19%という数字は、同業他社と比較しても突出しています。
高収益の背景には、前述の「難易度の高い仕事に絞る」戦略があります。難しい仕事は単価が高い。そして、技術力のある人材が揃っているため品質も安定している。結果として利益率が高くなる、という好循環です。
M&Aの企業価値評価(バリュエーション)では、利益をベースにした計算が一般的です。純資産(約3億円)に対して5.5億円という評価額は、利益の稼ぐ力=収益性が高く評価されたことを示しています。
3. データセンター・半導体工場の新増設という、大きな追い風
企業単体の業績だけでなく、「市場の成長性」も買い手の評価に影響します。
ポエック社が公表した補足説明資料によれば、データセンターや半導体工場の新増設を背景に、国内の電力需要は今後10年間で増加が見込まれています。経産省のデータでは、2034年度の需要電力量は2024年度比で約5.8%増の8,524億kWhと試算されています。
電力需要が増えれば、それを支える受変電設備の新設・増設・更新需要も必然的に高まります。マルコ電機技術のような専門技術者は、今後ますます必要とされる存在です。
「業界の追い風」があるときに売ると、成長ストーリーを語りやすく、買い手の期待値が上がります。これは個人経営者が見落としがちな視点のひとつです。
買い手から見た「この会社を買う理由」
ポエック株式会社は、水処理・防災・モーター修理・造船など、社会インフラ関連事業を幅広く手がける上場企業です。M&Aで事業を拡大してきた実績があり、今回のマルコ電機技術買収もその戦略の一環です。
買い手側の目線で見ると、この案件には明確な魅力があります。
ひとつは「成長の蓋(ふた)を外せる」という点です。マルコ電機技術は高い技術力を持ちながら、人的リソースの制約から一部の案件を受注できていませんでした。上場企業グループに入ることで、採用力・人材育成体制が強化され、今まで断っていた仕事を取れるようになります。「今の稼ぎ以上のポテンシャルがある会社」は、買い手に高く評価されます。
もうひとつは、グループ内シナジーです。ポエックグループが手がける工場向け水処理・防災設備などの顧客は、受変電設備も必要としています。マルコ電機技術の技術・顧客基盤と、グループ既存事業の親和性が高い。これが「戦略的な買い手」を引き付けた要因のひとつです。
この事例から売り手経営者が学べること
規模より「何で稼いでいるか」が評価を左右する
年商2億円・従業員7名という規模は、決して大きくありません。しかし、稼ぎ方の質が評価されました。受変電調整試験という高難度・高収益領域に特化し、19%の利益率を維持していた。これが純資産を大きく上回る評価額につながりました。
「うちは小さいから」「売上が少ないから」という理由だけで、M&Aをあきらめる必要はありません。重要なのは規模よりも収益性と競合優位性です。
個人株主が上場企業に売るケースは珍しくない
今回の売り手は「個人株主複数名」です。つまり、オーナー経営者とその関係者が保有する株式を、まとめて上場企業に譲渡しました。このスキームは、後継者不在の中小企業が事業を存続させるためのM&Aとして、最も一般的なかたちのひとつです。
マルコ電機技術の経営者は、30年間かけて積み上げた技術と信用を、大きなグループの一員として引き継ぎました。会社はなくなるのではなく、規模を拡大する形で続いていきます。
タイミングも重要な変数になる
電力インフラ需要が高まっているいま、受変電設備に関わる会社の評価は上がっています。「業界が熱い時期に売る」ことは、最終的な成約価格にも影響します。
自社の業界が追い風にある時期に、改めてM&Aの可能性を検討してみることには意味があります。
まとめ
ポエック社によるマルコ電機技術買収の事例から見えてくる点を整理すると、以下の3つになります。
- 利益率の高さが企業価値を大きく左右する。年商より「何割残るか」が評価のベースになる。
- 特定領域への技術特化は、競合優位性として高く評価される。参入障壁の高い仕事に集中しているほど、買い手の評価が上がりやすい。
- 市場の追い風があるタイミングは、M&Aの検討時期として合理的。買い手の成長期待が高まり、評価額に反映されやすい。
本記事は以下の公開情報をもとに作成しています。
- マルコ電機技術株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ(ポエック株式会社・2026年6月15日付)
- マルコ電機技術株式会社の株式取得に関する補足説明資料(ポエック株式会社・2026年6月15日付)