「M&AのFA(フィナンシャル・アドバイザー)と仲介会社、何が違うのか正直よくわからない」
そう感じている経営者は多いと思います。どちらもM&Aを支援する専門家ですが、立場と役割は根本的に異なります。この違いを知らずに相談先を選ぶと、後から「こんなはずではなかった」と感じることになりかねません。
この記事では、FAと仲介の違いを実務の観点から整理し、売り手としてどちらを選ぶべきかを考えるための判断基準をお伝えします。
FAは「売り手の代理人」、仲介は「両者の間に立つ存在」
FAと仲介の最も本質的な違いは、誰の利益を優先して動くかです。
FA(フィナンシャル・アドバイザー)は、契約した依頼人——この場合は売り手——の利益を最大化することを使命とします。売り手専任のFAは、買い手とは一切契約を結ばず、交渉でも「いかに売り手に有利な条件を引き出すか」だけを考えます。弁護士に近いイメージです。
一方、仲介会社は売り手と買い手の双方と契約を結び、取引成立を目的として間を取り持ちます。どちらの肩も持たず、折り合いのつく条件を探って双方が合意できるよう調整するのが役割です。
この違いを図にするとこうなります。
FA | 仲介 | |
|---|---|---|
契約する相手 | 売り手のみ(または買い手のみ) | 売り手と買い手の両方 |
立場 | 依頼人の代理人 | 中立の調整者 |
手数料の支払者 | 依頼した側のみ | 売り手・買い手の両方 |
主な使われ方 | 大型案件・上場企業 | 中小企業のM&A |
「両手取引」の利益相反とは何か
仲介会社が売り手・買い手の双方と契約を結ぶ形態を、業界では**「両手取引」**と呼びます。
不動産業界でも同じ言葉が使われますが、M&Aの仲介でも本質は同じです。一人の担当者が売り手と買い手の両方を代理するため、どちらかに有利な条件を引き出そうとすると、もう一方の利益が損なわれます。
具体的にどういう状況が起きうるか、説明します。
価格交渉での場面
売り手が「できれば1億5,000万円で売りたい」と言い、買い手が「1億円なら出せる」と言っている局面を考えてください。FAなら売り手の立場で「1億5,000万円に近づけるにはどうするか」を考えます。しかし仲介の立場では、「1億2,000万円で折り合いをつけて取引を成立させる」方向に動きやすくなります。取引が成立しなければ、仲介も報酬を得られないからです。
情報の非対称性の問題
売り手から聞いた情報(業績の課題、創業家の事情など)を、仲介担当者が買い手側の交渉に活用してしまうリスクも、構造的には存在します。実際にそうなるかどうかは担当者のモラルと会社のルールによりますが、「仕組み上ありうる」という点は知っておくべきです。
買い手として交渉してきた経験から正直に言うと、両手仲介の担当者が「売り手にとって明らかに不利な条件を黙って受け入れさせようとしている」と感じた場面は、少なくありませんでした。悪意があったかどうかはわかりませんが、「早く成約させたい」というプレッシャーが担当者の行動に影響することは、現実としてあります。
中小企業のM&Aで仲介が多い理由
では、FAが優れているなら、なぜ中小企業のM&Aでは仲介が主流なのでしょうか。
理由は主に二つあります。
① 費用の問題
FAは依頼した側だけが費用を負担します。売り手専任FAを雇えば、売り手が全額負担することになります。大型案件(数十億円以上)ならFA費用を払っても十分なリターンがありますが、売上数億円以下の中小企業の場合、FA費用だけで数百万〜1,000万円以上になることもあり、コストが見合わないケースが多いです。
仲介の場合は、手数料を売り手・買い手の双方が分担するため、1社あたりの負担が抑えられます(もっとも、実態は売り手側の手数料が主な収益源であることが多いのですが)。
② マッチングの問題
売り手のFAは交渉の代理人ですが、買い手を探してくるのは別の話です。買い手候補のネットワークを広く持っているのは仲介会社の強みであり、「誰に売るか」の選択肢を広げる機能は仲介の方が優れている面があります。
つまり、仲介という形態が中小M&Aに普及しているのには合理的な理由があります。問題は「仲介=悪」ではなく、「両手取引の構造リスクを理解した上で使う」ことが重要だということです。
規模・状況別の選び方
では、売り手として実際にどちらを選べばいいのか。いくつかの目安をお伝えします。
仲介会社が向いているケース
- 売上が数億円以下の中小規模の案件
- まず買い手候補を幅広く探したい
- M&Aの手続き全体をサポートしてほしい
- 費用を抑えたい
FAが向いているケース
- 売上10億円以上、あるいは交渉金額が大きい案件
- すでに特定の買い手候補がいて、交渉だけをサポートしてほしい
- 仲介の利益相反リスクを避けたい
- 相手(買い手側)にもFAがついている
仲介を使う場合の注意点
仲介を選んだとしても、以下の点は事前に確認してください。
- 担当者が売り手・買い手どちらも担当するのか、それとも社内で分けているか
- 着手金・中間金の条件(途中で断った場合の費用)
- 買い手候補のリスト(いつ頃、どんな候補が出てくるか)
- 専任条件の有無(他の仲介にも並行して相談できるか)
セカンドオピニオンという選択肢
仲介と契約した後でも、専門家に客観的な意見を求めることはできます。M&AのセカンドオピニオンはFAが担うことが多く、「今進んでいる交渉の条件が適切かどうか」を第三者として確認してもらうサービスです。
費用はかかりますが、億単位の取引であれば数十万円のセカンドオピニオン費用は十分に元が取れます。「担当者の説明が腑に落ちない」「提示された価格が本当に妥当なのかわからない」と感じた場合は、検討してみてください。
まとめ
- FAは「売り手の代理人」、仲介は「売り手・買い手の間に立つ調整者」。立場が根本的に異なる
- 仲介の両手取引には構造的な利益相反リスクがある。悪意がなくても、担当者の行動に影響しうる
- 中小企業のM&Aで仲介が主流なのは、費用とマッチング機能の面で合理的な理由がある
- 仲介を使う場合は、担当体制・着手金条件・専任有無を必ず事前に確認する
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